自画像 作品集
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●●●自画像 作品集●●●

文章による「自画像」は高等部の文章講座の卒業作品です。
各年度からいくつかを紹介しています。


   ★「自画像」

 見るもの聞くものが凄いスピードで変化する渦の中で、私は一体何を感じることができるのだろうか?そして何を掴み取ろうとしているのだろうか?そのうちそれさえ忘れてしまうことが怖い。

 胸の中に 赤く燃える炎が 一つ見える。それはときおり大きくなったり小さくなったりするけれど決して消える事はありません。

 莫大な量の言葉達が情報という恐ろしい波となって自分に覆い被さってくる。呑みこまれれば最後、自分の体はぐるぐる回転しながら流れの速い渦の中へとひきずりこまれて、もみくちゃにされる。呑みこまれた波の中では、たくさんの人々の声を聞き、生まれては消えていく何十億の水の泡を見る。私はそこから必死に何かを掴み取ろうとするけれど、また次の波がやってきて私の体を再び渦の中へと引きずり込んでいく。

 胸に 赤く 燃える炎が 一つ見える

 私は見たい。泥にまみれてくたくたになった履物の最後を。下水の匂いが漂う誰もよりつかない路地裏も。もう壊れてしまい、捨てられる運命のガラクタや、部屋の隅っこに書かれたまま忘れ去られた落書きも。私はまだ見たい。やりきれない悲しみとやるせない寂寥感。苦痛という日々に目から鼻から涙や鼻水をずーずーだしている自分の顔を。目を見開き、くちをこれ以上開けないほど大きく開けて笑った顔も。

 私は感じたい心臓が飛び出るほどの喜びや、腹がえぐれるほどの苦しみを。今にも飛んでいきたくなるような楽しさや、歯がゆくなるほどの悔しさを、何百回でも何千回でも感じていたい。私は叫びたい。吠えたい。唄いたい。わめきたい。死ぬほど笑い転げたい。殴りたい。悩みたい。迷いたい。食らいつきたい。心を振るわせたい。体を温めたい。当てもなく歩きたい。ただ走りたい。

 胸に赤く燃える炎が一つ見える。それはときおり、大きくなったり小さくなったりしながらも、決して消える事はありません。それはわたしの「生ききりたい」という欲求です。(N.H.)


   ★自画像

 裏の戸が開け放されていて、風がひゅーと流れ込む。風は先程咲いたゲンコツバナの香りをたずさえ、家の中を一回りすると、最後に玄関の扉にぱちんと当たってきゃーと四方に散った。表の植木は激しく硬いガラス戸に体当たりを繰り返す。不透明ないくぶん分厚いガラスには、叩きつける木の水分が飛び散っている。緑のしずくが不透明なガラスのあちこちに斑点をつくる。その内側では、風がぱちぱち弾けて外へ出ようとわずかなすき間をかじり合った。両者の間に在るものは家であり、両者に重くのしかかるのも家だった。玄関の扉の車が錆びついて回らないのは、もう長い間開いていない証拠だ。家は植木から太陽を奪い、風の流れをせき止めていた。家は、より多くの光を求め、風による浄化を求めた。開かない扉を放置し、風の悲鳴を空気の中に聞き流している。真夏の太陽の陽射しで、屋根はもう随分熱くなり、その熱は床下の暗闇まで届いたはずである。家は植木の分の光をすっかり浴び取り、家具をまた一つ生み出した。主人が気持ちよく休めるように白色のソファー、赤褐色の小さなティーカップ。帰る佳人をまっている。裏口から時折り迷い込んでくる風は、随分家を上下に二分して渡り、やはり最後はぱちんと当たって出口を求める。すると周囲の壁のすき間にはり付いていた先の風達が無理やりに外へ押し出されていった。どんな手段でも、びくともしない家の床下は、実は少し高くできていた。もちろんそこなし暗闇の支配する領域である。ごろ、ごろ、と動く物影をねずみは横目でみながら暮らしていた。昨晩集めた食料の腐敗した臭いを確かめ、ハエの寝床へ運んでやるねずみだった。ある時風が、床の笹にひっかかり、転がると、小さな節穴に引き込まれていった。そこにはやせ細った餓鬼のような女がかげろうを追いかけて狭い床下をころげている。家が集めた熱は、かげろうを閉じ込めるように地下にうごめいていた。(K.T.)


   ★自画像

 美しい名前をもらった。愛のこもった名前をもらった。

     ゆらりゆれる 月の影
     私の月は 夜のすきま
     煌めく光をはね返して
     受けとめられない 月 がある

 沖縄の体にしみこむ寒い冬。夜空は数えきれない星と月を私の頭上にひらりと広げている。自分の無力さを隠す様に。鏡に映る私は今日も笑う。この体はただ血と骨と肉で出来た塊にすぎない。揺れる心はしっかりとそれに包まれて動けないでいる。あるいは、もうどこかに行ってしまったかもしれない。失くしたものを数えてみる。大きいもの、小さいもの、大切なもの、そうじゃないもの。一歩ずつ前に歩いていく度、一つずつ落としてしまった。遠い夏の昼下がりに忘れてきた。心の奥で震えながら、たくさんの嘘をついた。そうして私が守ったものは何だろう。この手に全てを掴みたかったのに、気が付けば今の私の両手には何も残らない。
 沖縄の夏は暑い。夜にたちこめる生ぬるい空気が、どろっと湿った体にまとわりつく。流れのない濡れた風が運んでくるのは果てしない徒労感。そんな夜は生きること、私が私である事を諦めてしまう。粒子状の闇が私の中の優しさを必死に探してヒタヒタ追ってくる。急に手首が疼き出して思わず逃げる。私は甘えた強さを欲しがっている。そのころ丁度、私の頭上に登った月が夜に閉じ込められて動けずにゆらゆらと影を落として、煌めく光を拒絶している。月を照らす温かい光を受けとめられずにたまらずはね返してしまうのだ。毒づいて。私は、迫りくる闇から逃げるうちに、だんだん疲れて深い眠りについてしまった。ずいぶん長い間眠っていたようだ。眩しい光に覆われて目を開けると、私は裸で蹲っていて、まるで生まれたばかりの赤ん坊のように泣いていた。何もない。私が私である事に理由もない。ただ広がる世界に裸足でふみ出す。温かい光を受けとめて、深い闇も飲み込んで、私は大地を踏みしめる。(S.K.)


   ★自画像 「岩」

 彼という人間は、今まで憎しみと後悔と言う岩をかかえて生きていた。もうそれを手放したと思っていた。しかし手放したのではなくそれに目をつぶっていたのだ。彼はできればこの重たい岩をすてたいと思った。しかし彼はその岩を手放したくないのだ。彼は、この岩をもつハメになったのは父親と母親のせいにしたかった。それをタテに夢と自信に反抗するようになった。しかしそれは甘えと身勝手な考えだった事に彼は気づかされたのだ。
 親はその当時とくらべて自分のあやまちを理解して反省しているのを彼は知っている。しかし、なぜ今も憎しみと後悔の岩をもっているのか彼本人にもわかっていない。しかし彼はこの岩をかかえてそれを手放せない以上は、それを受け入れて憎しみと後悔から許しと反省の岩に変えていきたいと思っている。彼は相手と彼自身を傷つけていた。親友はこの答えをもっていて彼にその事を言っていたのにそれを無視していた。今ならわかる。彼が憎しみと後悔の岩をもったのはだれのせいでもなく彼自身のせいなのだ。今は岩の重さをかんじないがそれがたまに重くかんじる事がある。これをかるくするには、どうするか。彼の人生で考えて行くほかはない。(M.G.)